2023.03.31
移住創業者ストーリー
巡り巡ってたどり着いた地元での起業。
「農業を守る」その決意に秘められた想いとは。

Profile
越智 滋彦
(株式会社MOriTO Farming 代表取締役)
今治出身。アメリカの大学へ入学し、卒業後は東京で営業や外国人技能実習生の監理などを経験。2019年に、先代農家である母親が病気で亡くなったことをきっかけに、8代目として農地を引き継ぐことに。農業法人ではなく「株式会社」という法人格を選択し、ビジネスとして農業を守り未来につなぐため、人材の教育にも力を注ぐ。

農業でありながら、あえて選んだ「株式会社」

まず初めに、現在取り組んでいる事業について教えてください。

2019年8月から個人農家として農地を引き継ぎ、2022年7月に法人化しました。若手農業従事者を中心とした就農支援体制を築き、安定的な農業生産と持続的な成長へと繋げています。現在は、社員6人で取り組んでいます。

えっ、株式会社なんですか。農業法人ではなくて?

そうなんです、珍しいと思いますが…。株式会社にした理由ですが、先祖代々の農地を守ることは、つまり「周囲の農業を守ること」だと感じたことがきっかけになっています。というのも、周りの農家さんが高齢化し人手不足が深刻化している現在、もっと若い世代が就農しやすい環境を整えることが何より大事だろう、と。そのためには「株式会社」として持続的に発展する必要があると考えたんです。農業をするのはもちろんですが、ある意味「人を育てる」ことを大事にしてます。

ただ、株式会社のシステムを維持するためには、作物の付加価値を高めていく必要性があります。また、短期収益型の作物も必要になってきます。そのため、周辺の農家を辞める人の農地も引き継ぎながら、技術も継承しているところです。

現在は「愛媛守り人みかん」というブランドを生み出し、関東や東北を中心に展開しているため東京に行く機会も増えてきました。経営の多角化も進み、紅まどんなや甘平、キウイフルーツ、スイカ、なす、甘長とうがらし、いちごなどを育てています。今後は、柑橘とイチゴが主力になっていくでしょうね。

運命に導かれるように、農業の世界へ

農業を守るために、何ができるかを常に考えているんですね。その考えに至った過去の経歴はどういったものだったのでしょうか?

高校卒業後は、テキサス州立大学に入学しました。コミュニケーション専攻で、プレゼンテーションスキルなどを学ぶ生活でしたが、そんな最中突然、尊敬していた祖父(6代目)が亡くなったとの知らせを現地で受けたんです。「学業をおろそかにしては行けない」という家族の配慮があったのかも知れませんが、敬愛する祖父の最期を、亡くなってから知ることになり…。直系長男として将来、農地を継ぐ覚悟とプライドを持っていたので、その時とても辛かったです。半ば自暴自棄になり、4年生で大学を辞めて一度愛媛に戻ってきました。

帰国後、さっそく農業を引き継いだのですが、自分の思っていた農業の世界と現実とのギャップに悩むことが増え、結果的には知人を頼って上京することにしました。

突然の知らせから、愛媛に戻ってからも悩みがあったんですね。それでも、やはり農業にはいつか戻ろうと思っていたのですか?

「さまざまな世界を見た上で自分なりの農業を将来的に築きたい」という考えはあったと思いますね、明確に意識していたわけではないのですが、点と点がつながったのはずっと後になってからでした。

東京ではさまざまな仕事を経験し、特に「人」に特化してキャリアを積んできたのですが、得てきたスキルやノウハウから取捨選択を行い最適化した結果、ぐるっと円を描いて、元いた「農業」という世界に戻ってきたように思います。それは自分の意思だったのか、そうではなかったのかは分かりませんが…不思議だなと感じます。

農業から離れながらも、心の底には守りたいものをずっと抱えていたのかもしれないですね。そうして、巡り巡って今治に戻ってきてからは、どんなチャレンジがあったのですか?

とにかく資金繰りが大変でした。農業、特に柑橘はイニシャルでかかるコストが高い割にリターンまでの時間がかかる。仮に1000万円かけてビニールハウスを建てても、5年後に数百万円ずつ帰ってきたら良い方といったロングスパンの考え方が必要になるんです。

また、菊間町で「地域の農業を守る」という宣言をしても、私たちがやっていることは”イロモノ”と捉えられることが多かったですね。地域の皆さんに認められるまでは大変なハードルがありました。ですが、今年に入ってからそのハードルもパスできたと感じています。

それはなぜでしょうか?

地域でも手をつけられなかった荒れ果てた農地を、自分達の手で再生させることができたのが大きかったですね。何人もの地権者さんとの協議を経て、野菜を複数品目を育てる広い園地も整地できました。その過程で、私たちが「何をやっているのか」が見える化されていったように思います。その結果「自分の園地を使ってほしい」と言ってくださる方が増えてきました。

良いことも悪いことも、全て飲み込んで今がある

行動こそが証明材料ということですね。今後、どのようなことにチャレンジされるのでしょうか?

これからは、地区の資源を循環させ、環境配慮型の農業を行います。具体的には、2035年までには農地全体の50%を化成肥料から堆肥化していくことや、環境に配慮したブランド展開などを通じて、持続可能な農業を目指していきたいです。

また来年から始まるいちごの収穫では「複合環境制御」を始めていきます。栽培において大事な水分量、気温、湿度など全てをデータ化し、誰でも同じクオリティの農業が行えるようにする取り組みです。

私たちは非農家出身の社員が多く、初めて農業を始める人にとっても具体的に『今これをしなくては行けない理由』を明確化することが大事なんです。

ありがとうございました。後に続く移住者や起業家に、メッセージをいただけますか?

愛媛のいい部分も悪い部分も、愛媛だからできることもできないことも、全部ひっくるめて経営の糧にしてほしいなと思います。

移住は「する側」が、身を置く環境をどう捉えるかが大事です。地域の良い部分だけを見て安心するのも、逆に悪い部分だけ見て嫌悪するのも簡単。ですが、いつでも短所と長所は隣り合わせなものです。色々なシーンを見て、感じて、全てを愛媛の魅力と捉えて欲しいなと思います。もし、これから移住される方がいたら、ぜひ一緒に、長く住める地域づくりに取り組んでいきましょう!

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