〜【EGF創業ストーリー】愛媛県で起業した理由〜

大洲を“クリエイティブシティ”に。若手画家が仕掛けるアーティスト・イン・レジデンス

團上祐志(株式会社STILLLIFE(スティルライフ))

国内外のアーティストが古民家に滞在しながら創作活動を行うーー。愛媛県大洲市で、そんなアーティスト・イン・レジデンスの事業が動き出しています。仕掛けているのは、株式会社STILLLIFEの代表・團上祐志(だんがみゆうし)さん。自身も画家で、学生時代からアメリカで活動するなど、その腕前は国内外で高く評価されています。そんな團上さんが、起業して愛媛の地へ。アートを軸に、新たな風を吹き込もうとしています。どんな姿を思い描いているのでしょうか。
團上祐志(株式会社STILLLIFE(スティルライフ))

團上祐志(株式会社STILLLIFE(スティルライフ))

1995年、愛媛県松山市生まれ。武蔵野美術大学油絵科油絵専攻。在学中にアメリカに渡り、ニューヨークやロサンゼルスなどで活動。国内外で数多くの個展やグループ展を参加。2018年6月、株式会社STILLLIFEを設立。空き家(古民家)を活用したアーティスト・イン・レジデンスを軸に事業を展開。西日本豪雨で浸水した木材を使用したテーブル「two-by-two」を製作、ゲストハウスや電動キックボードのシェアリングサービスも計画中。

地方の古民家に、国内外のアーティストを呼び込む

ーーまずは、大洲市で行うアーティスト・イン・レジデンスについて教えてください。

小さい頃から、絵を描くのが好きだったんです。小学校のクラスに1人くらいはいるじゃないですか。絵を描くのがやたらとうまい子が。そういう子どもでした。両親をはじめ周囲に画家や絵が得意な人がいたわけではありません。だから、理由はわからないんですよね。気がついたら、絵が好きになっていました。

本格的にプロを目指そうと思ったのは、15歳のときです。ある全国のコンクールで新人賞を受賞しました。それが契機で、高校卒業後に上京して武蔵野美術大学に進学します。大学では2年生のときに大きな賞を受賞したり、大規模なグループ展に参加したりしました。3年生からプロとしての活動を開始します。アメリカの展覧会に呼んでもらったりもして。翌年は大学を1年間休学して、ニューヨークやロサンゼルスを拠点に活動をしていました。

ーー画家として国内外で注目されながら、起業の道へ進みました。

きっかけは、アメリカで生活したことですね。海外に渡ったことで、日本のことを見つめ直すようになったんです。海外に行くと、その国に惚れ込むか、逆に生まれ育った国を強く意識するようになるか。大きく2パターンあると思うんです。僕は後者で、現地の人に日本の文化や歴史を尋ねられても、なかなかうまく語れなかった。「なぜおまえは日本のことをしゃべれないんだ」と。それが頭の中に残って離れなくて。

日本の今のアートシーンには、どこかでアメリカに憧れている雰囲気があります。一方で、アメリカのアーティストたちは日本のことを知りたがっている。そのギャップも気になったんですよね。画家としても一個人としても、日本のことをしっかり学んでみたい。そんな思いが芽生えました。

すると、いろんなことが見えてきました。例えば、インバウンド需要について。日本に数ある古民家は、実は外国人が経営しているケースが多いんですよ。それで海外から宿泊客を呼び込んでいる。なんだか日本のお株が奪われているような状況ですよね。疑問だったし、どうも納得できなくて。このままでいいのか、と思うわけです。それで日本を拠点に「何かやりたい」という思いに駆られはじめました。同時にそれは、「やらねば」という危機感に近い感覚でもありましたね。

ーーその答えの1つが、起業であり、アーティスト・イン・レジデンスだったと。

アーティスト・イン・レジデンスは、アメリカで生活していた頃から「おもしろそう」と考えてたことなんです。

例えば、ニューヨークのブルックリン。あそこはもともと、土地の価格が安い倉庫街でした。安く製作スタジオが手に入るので、アーティストたちが自然に集まってきて、どんどん町が栄えていった。そんな現象が生まれた場所です。これは自然発生的に生まれた現象ですが、意図的に生み出すこともできるんじゃないか。それが、空き家を活用したアーティスト・イン・レジデンスを着想した理由の1つなんです。

それと、これはイタリアのベネチアを訪ねたときに目にした光景です。そこでは、アーティストたちが自分たちの住居とスタジオとして使っている家で、空いているスペースを旅行者に貸し出していました。つまり、自分の家をスタジオと民泊事業に使っている。日本でもこれができれば、宿泊施設が増えて町が活性化するんじゃないか。アートに触れる機会が増えるので、町全体の文化的なリテラシーも底上げされ、“クリエイティブシティ”としてブランディングできるんじゃないか。そんなことも構想するようになりました。

アートティスト・イン・レジデンスは内と外をつなぐアダプタ

ーー東京ではなく、地方でやろうと。それはなぜだったんですか。

日本で行われているアーティスト・イン・レジデンスは、東京が中心です。都心の空きビルを使うケースが多いんですね。でも、それで果たして日本の文化を肌で味わえるでしょうか。僕には疑問です。海外のアーティスト・イン・レジデンスでは、教会や酒蔵をリノベーションした場所が使われたりしています。つまり、「この国にはこういう文化がある」という“ミニ大使館”のような役割を果たしてるんです。

だったら、日本ももっと自分たちの歴史や文化を体感してもらえるような場所につくるべきだと思うんです。それはどこにあるのか。僕は、世界から見た日本の特色はむしろ地方、農村部にこそあると思ってます。地方には、古民家がたくさんある。古民家は外国人に人気で、特にアーティストは大好きなんです。一方で、地方では今、空き家が深刻な社会問題になってますよね。そこをうまくマッチングさせれば、国内外からアーティストたちがどんどんがやってくる。そんなことを思い浮かべながら、事業計画を練っていきました。

ーー空き家とアートを掛け合わせる。そういうことですね。

最近、空き家の活用方法としてはIT企業などのサテライトオフィスやコワーキングスペースとして使われるケースがよくありますよね。

もちろんそれは否定しませんが、都会のビジネスマンを呼び込むにはそれなりの設備投資が必要で、イニシャルコストがかかるんですよね。でも、アーティストの場合は最低限、製作するためのスタジオさえあればいいんです。それほどイニシャルコストをかけなくても、自然と人が集まってくるはずです。ですから、アートティスト・イン・レジデンスは地域の内と外をつなぐアダプタとしては、とても適してると思うんです。

先ほど言ったように、そうやってアーティストたちが集まってきてどんどんクリエイティブな町になっていけば、今度は企業もどんどん参入してくるはずです。観光客も増えるでしょう。そんなイメージを膨らませています。

愛媛からグローバルに。「EGF」のビジョンに共感

ーーちなみに、愛媛を選んだのにどんな理由があるのでしょう。

実は、これは偶然なんですよね。もちろん僕の地元ではあるんですが、最初から愛媛でやろうと考えていたわけではありません。

全国のいろんな場所を検討していたときに、たまたま「EGF」を見つけたんです。愛媛からグローバルに通用するビジネスを生み出そう。そのビジョンに一気に惹かれましたね。愛媛で生まれ育った身としては、正直驚きましたよ。壮大なビジョンですから。でも同時に、強く共感し、感動したんです。これは何かの縁だと思って、愛媛を創業の地に決めました。その後は県の相談やサポートを受けながら、2018年6月にSTILLLIFEを立ち上げました。

それから、大洲市ですね。古い町並みが残る城下町なので、文化やアートへの寛容性があって、歴史的建造物も多いので古民家もたくさんある。そう思ったのが大洲を得たんだ理由の1つです。空き家の問題についても、松山市など中心地に比べるとより深刻でしょうし、ここで挑戦する意義は大きいと感じました。

ーー「EGF」とは偶然の出会いだったんですね。「EGFアワード」では優秀賞を受賞されました。

「EGF」がなかったら、今のSTILLLIFEはなかったかもしれません。それほど助けられてます。

まず、事業計画です。県を通して愛媛の資源や今抱えている課題、これから目指す方向性。それと、地域の人たちがどんなことを考えているのか。ほかの起業家はどうしているか。たくさん学ばせてもらいました。僕1人でやっていたら、頭の中のアイデアをここまでしっかり事業プランに落とし込むことはできなかったと思います。

西日本豪雨のときに製作したテーブル「two by two」もそうです。これは、豪雨で浸水した木材を業者から譲り受けて、再利用して住民のみなさんと一緒につくったものです。製作ワークショップの参加者募集や広報・PRなど、県にはいろんな面でサポートしてもらいました。

two by two two by two

ほかにも、そのおかげでスムーズに前に進めることがたくさんあります。大洲市ともうまく連携できたり、地域住民のみなさんからも信頼してもらいやすかったり。地元金融機関からの融資もそうです。「EGF」を通じて、県内の民間企業ともたくさん知り合うことができました。事業の立ち上げ期もそうですが、長い目で見ても「EGF」で得たノウハウやネットワークは役立ってくるはずです。これからいろんな企業とコラボできればいいですね。

欧米中心に5人が滞在。集客は十分可能

ーーアーティスト・イン・レジデンスは来春の開業が迫ってきています。

それに向けて、今急ピッチで準備を進めているところですね。正式な事業・サービスとしての展開はまだ先ですが、すでに関心をもってくれた5人ほどのアーティストが今、滞在しています。東京、カナダ、アルゼンチン、ウクライナ、イスラエル、アメリカなどです。僕個人のネットワークや、世界的なアーティスト・イン・レジデンス専用のプラットフォームを介して参加してくれている人たちです。つい先日も、地域のみなさんと一緒にワークショップを開催しました。アーティストはこれから本格的に募集していきますが、その専用プラットフォームを使えば十分集客できると思っています。

ーーそれ以外に、今後計画していることがあれば教えてください。

1つは、電動キックボードのシェアリングサービスです。これは、市内の古民家などが点在する観光エリアの課題解決を目的にしたものです。このエリアには大洲城や重要文化財などがあるんですが、駐車スペースが少ないので路上駐車が目立ってしまっています。じゃあ駐車場を増やせばいいかというと、それではせっかくの風情ある町並みが台無しです。一方で、徒歩で回るには少ししんどい。それなら、車と徒歩の中間の移動手段、新しい選択肢としてキックボードというモビリティを提案しようと。「ema」という電動キックボードのシェアリングサービスを手がけるmymerit(東京)と組んで、これから乗車体験会や実証実験を行っていく予定です。

STILLLIFEの事業を木で例えるなら、アーティスト・イン・レジデンスが幹。つまり、事業の柱ですね。そこから、電動キックボードのようなプロジェクト型のビジネスを枝葉のように少しずつ加えていく。アーティスト・イン・レジデンスを軸しながら、そんな風にして会社として利益を生み出し、地域一体となって大洲を魅力的な町にしていきたいですね。