〜【EGF創業ストーリー】愛媛県で起業した理由〜

公務員志望から起業家へ。アメリカ留学で自分を見つめ直し、愛媛で起業した理由

栗原 峻(株式会社GATI)

学生時代に個人事業を立ち上げ、卒業と同時に起業家になった若者がいます。学生の就職、企業の採用サービスを手がける株式会社GATI(ガチ、松山市)の栗原峻さん。もともとは公務員志望でした。安定志向から一転したのは、アメリカ留学で“ありのままの自分”に自信が持てたからだといいます。都心では決して珍しくない若手起業家ですが、なぜ愛媛だったのでしょうか。起業への思いを聞きました。
栗原 峻(株式会社GATI)

栗原 峻(株式会社GATI)

広島県尾道市生まれ。高校卒業後、愛媛大学に入学。トライアスロンや地域のボランティア活動に明け暮れ、アメリカ留学も経験。卒業間際の2018年2月、個人事業で県内の学生と企業の採用マッチングイベント「ガチやけん」を始める。翌年4月に法人化、株式会社GATIを設立。採用イベントのほかに、学生や企業が利用できるコワーキングスペースの運営や採用コンサルティングも手がける。26歳。松山市在住。

学生と企業が出会う場「ガチやけん」

ーー学生時代に就職・採用サービスの事業を始めたそうですね。

県内の学生と企業が“出会う場所”“つながる接点”をつくろうと思ったのがきっかけです。それが、少人数の企業説明会「ガチやけん」です。

愛媛は、東京などの都会と比べると新卒採用のサービスが少ないんですよ。これは、僕自身が痛感したことでもあります。当時東京でよく就活してたんですが、おもしろいサービスがたくさんあるんですよ。企業の採用担当者と食事をしながら面談したり、テレビ電話で面接したり、合同説明会でグループディスカッションをしたり。でも、愛媛では大規模な合同説明会や就活サイトがある程度で、学生が日常的に企業と接する機会が限られていました。

愛媛の学生は、地元で就職したいと考えている人が少なくありません。これは、学生のときに実施した調査でわかったことです。地元で働きたいと思っても、そもそも地元企業のことを知らない。「役所や銀行、スーパーマーケットは知ってるけど、ほかは…」という声が多くて。

ただ、実は県内には魅力的な企業や経営者がたくさんいるんです。僕は学生時代、動物愛護のボランティア活動をしたり、子どもの居場所を提供する「子ども未来教室」を運営していました。それを通じて、活動資金を提供してくれたりする経営者にたくさん出会いました。いい会社や経営者がいるのに、その魅力が伝わっていないのはもったいないことです。

子ども未来教室

子ども未来教室

ーーそれで、採用イベント「ガチやけん」を始めたわけですね。

大学卒業を間近に控えた2018年2月、個人事業で始めました。「ガチやけん」は企業5社、学生40人ほどを目安にした少人数の説明会です。「スーツは禁止」「ありのままをさらけ出そう」「なんでもぶつけよう」というルールを掲げ、ゲーム形式のグループワークや座談会、飲み物を片手に自由に交流する時間をつくるなど、約3時間にわたって企業の経営者や学生が交流します。小規模なので、お互いのことをより深く知ることができるんです。

ガチやけん

ガチやけん

これとは別に、日常的に企業と学生が交流できる場として就活カフェ「みくろす」も運営しています。松山大学と愛媛大学に隣接するスペースを無償で提供してもらい、企業と学生の交流のほかに、学生がエントリーシートの作成などに自由に利用したり、企業の採用担当者同士が意見交換できるイベントを開催するなどしています。

みくろす

みくろすの様子

挫折の末、アメリカへ。そこで芽生えた自信

ーー大学卒業とともに起業したわけですが、もともと起業志向はあったんですか。

いや、それが最初はまったくなかったんですよ。もともとは公務員志望だったんです。と言っても、正直それも将来は地元に帰って役所に勤めようかな、くらいの軽い気持ちでした。

きっかけは、大学2年のときのアメリカ留学です。それまでの僕は、どこか劣等感を抱えながら生きていました。小さい頃からよく「普通じゃない」なんて言われたりして、周囲と馴染めないこともあって「自分はダメな人間なんだ…」と思ってたんですよ。

でも、アメリカでは違ったんです。「君には、こんないいところがあるよ」と個性や強みを認め、評価してくれました。周りには個性的な人がたくさんいて、互いに尊重し合っている。人と違うことや個性にこそ、価値がある。そんな風に言われている気がして、自信がつきました。この経験は大きかったですね。

アメリカでもボランティア活動などに参加してたんですが、それを通じて経営者などと知り合う機会がたくさんあって。将来は起業するという選択肢もありかな、と思い始めました。公務員やサラリーマンだけではない、将来の新たな可能性が垣間見えた。そんな貴重な体験でしたね。

栗原さんの留学中の様子

栗原さんの留学中の様子

ーーアメリカ留学で価値観が大きく変わったんですね。

人生わからないですよね。留学したのは、正直言って少しネガティブな理由からだったんです。

大学で始めたトライアスロンに行き詰まりかけていたこと、それとこれは恥ずかしい話なんですが、当時付き合っていた彼女にフラれたこと。それで落ち込んでいたときに、思い切って環境を変えてみようと思ったんです。

トライアスロンは、主要な大会で上位に入るなど県内でも目立った成績を残していました。でも、練習も試合もチームではなく、ずっと1人でやっていました。ストイックに数字を追求すればするほど、いい成績は出せても競技そのものを純粋に楽しめない。段々と、そう感じるようになったんです。

そんなときに、高校時代から付き合っていた彼女にフラれました。大学を卒業したら広島に戻って、彼女とずっと一緒に過ごす人生を漠然と思い描いていました。それが一転、将来がどうなるのか、先のことがまったく見えなくなってしまって。

でも、そんなときこそ自分を変える、将来を考えるいいチャンスだと思って、留学することにしたんです。留学費用はアルバイトで貯めました。その留学経験が、今の起業という道につながっています。

トライアスロン大会での栗原さん

トライアスロン大会での栗原さん

10%がマッチング。企業、学生から高評価

ーー「ガチやけん」を始めて約1年半。どんな変化が生まれているのでしょう。

この1年半で、約30社の企業に参加いただきました。2019年春卒の学生向けに開催したイベントには70人が参加したんですが、このうち7人(10%)が実際にイベントで知り合った企業に就職しています。自動車ディーラー、出版、IT・人材系などですね。マッチングの精度が高く、おかげさまで企業からも好評です。

企業のみなさんからは、「こんなイベントは今までになかった」「学生のリアルな姿を見られる」「学生とフラットに接することができる」といった言葉をかけてもらい、継続して何度も参加いただいています。学生も「『ガチやけん』がなかったら、この会社と出会うことはなかっただろう」などと感謝してもらってますね。

学生の場合、経済学部なら金融系などと、どうしても志望業界や業種が偏りがちになります。「ガチやけん」は毎回、参加企業はすべて違う業界・業種で構成するようにしています。それと、社長をはじめ経営幹部に参加いただくようにしてるんです。学生にとって、経営者と直接話せることなんて滅多にないですからね。結果として、当初はまったく考えていなかった会社に入社するケースもあり、学生に新たな可能性を開く機会がつくれていると思います。

ガチやけん

ガチやけんの様子

ーーとても順調なスタートを切ったように見えますね。

でも、まだまだですよ。「ガチやけん」は試行錯誤しながら、毎回内容を改善してますし、開催回数も十分とは言い切れません。

それでも、周りのサポートに助けられているのが大きいですね。過去に参加した企業が口コミで広げてくれているおかげで、いろんな企業が申し込んでくれるようになりました。先ほど説明した就活カフェ「みくろす」の場所も、地元の不動産屋が厚意で1年間無償提供してくれたんです。

それと、「EGF」の存在も大きいですね。ビジネスプランコンテスト「EGFアワード」では特別審査員賞を受賞できました。県が主導する大きなプロジェクトですから、反響は大きかったですよ。メディアに取り上げられたおかげで認知度が上がりましたし、補助金の申請が通りやすくなるなど、いろんな部分で役立っています。いろんな巡り合わせで、今僕はここに立てていると思っています。ほんと、すべてご縁ですよ。

ーー話は変わりますが、学生時代から暮らしている愛媛の生活はどうですか。

僕はずっと松山市に住んでますが、過ごしやすいですよ。松山は四国で一番人口が多い市ですから、基本的に何でも揃っている印象ですね。自転車でぐるっと一周できるくらいのコンパクトな町なのも、便利でいいですね。僕と同じように高校卒業後に愛媛に進学した友人や知り合いには、そのまま愛媛に住み着く人が多いんですよ。

便利なのに、家賃は安い。これも魅力ですね。学生時代から住んでいるアパートは、家賃が18,000円です。6畳1間の1ルーム。ユニットバスですが、築年数が古いわけではなく、徒歩15分ほどで松山の中心部に行けます。生活コストがそれほどかからないので、起業する人にとっては、特に資金のやりくりが大変なときは住むのにオススメですね。

採用コンサルに着手。愛媛をもっと魅力的に

ーー事業について今後の計画を教えてください。

「ガチやけん」は、より多くの学生や企業に参加してもらえるように内容をブラッシュアップしながら、もっと多くの成果を出していきたいと思います。就活カフェ「みくろす」は、10月からコワーキングスペースとしてバージョンアップさせます。新たに企業向けの有料サービスを始めるんです。広告掲載などで有料会員になってもらい、学生と交流や面談ができる場として活用してもらいます。

これ以外にも、大きなチャレンジに打って出るつもりです。それが、採用コンサルティングです。単発のイベントなどとは別に、採用フローの策定からインターンシップ、イベントなどまで、年間を通して企業の採用活動をお手伝いします。これは来年から本格的に動き出す予定です。

みくろす

みくろすの様子

ーーここにきて、もう一段ギアを上げるわけですね。

これまではほとんど僕1人でがむしゃらに突っ走ってきましたが、今月から長期インターンで学生に加わってもらいました。再来年からは新卒の社員を入れたいと思っています。社内の体制も強化していくつもりです。

GATIの事業としては、将来的には転職や第2新卒の市場も開拓したいですね。これから先、企業にとって採用はどんどん大事になってくると思うんです。今は予算と手間をかけて採用をがんばっている企業と、そうじゃない企業が二極化している印象です。でも、採用がうまくいくと、巡り巡って経営全体もよくなる。僕自身、GATIの活動を通してそういう好循環が生まれる状況を目の当たりにしてきました。

採用力のある企業が増えれば増えるほど、愛媛の企業がどんどん魅力的になり、県全体が元気になる。そんな姿を思い描いています。まずは愛媛で、そして将来的には地元・広島など他地域にも“愛媛モデル”を広く展開していきたいですね。とはいっても、起業家としてはまだまだ経験が足りません。長い目で期待してもらいたいと思います。

栗原さん ーー最後に、愛媛での起業やUIターンを考えている人にメッセージをお願いします。

まずは、起業についてです。愛媛には、まだどこかに埋もれているいい資源やコンテンツがたくさんあると思うんです。収穫量が全国トップの柑橘類、江戸時代から続く砥部焼(とべやき)をはじめとする伝統工芸など、世界に向けて広く発信できる可能性のある資源があります。ぜひ、起業の道を模索してほしいですね。

愛媛は都会と比べてコミュニティが狭い分、1ついいビジネスができたら、それが一気に広がっていく。そんな醍醐味も味わえます。東京には、僕と同世代で同じように起業している人が山ほどいますよね。でも、競争が激しい分、埋もれてしまったり脱落してしまうケースも少なくないはずです。でも愛媛では、「EGF」をはじめ周囲に手助けしてくれる人がたくさんいます。とても心強いですし、小さいフィールドだからこそ活躍しがいがあると思います。

それから、UIターンです。それを阻むハードルの1つに、「給料が安い」「自分のスキルを活かせる仕事がない」といった課題があると思うんです。僕としては、まずはGATIをそういう壁を乗り越えられるような会社に育てたいと思ってますし、他の企業にも採用支援を通してそのサポートができればと思っています。これからUIターンして起業する人たちには、そういう魅力的な会社をつくる心持ちで、思い切ってチャレンジしてほしいですね。